こんにちは!
今日は、私のドイツでの卒業試験の、思い出話をしたいと思います。
私は、北西ドイツにある、国立デトモルト音楽大学というところを卒業しました。
卒業するには、Diplom試験というのを受けなければなりません。
日本では、希望の学校に入学するまでが大変、というイメージがありますが、
外国では、入学試験より、卒業試験の方が、ずっとずっと大変です。
特に、デトモルト音楽大学のDiplom試験は、かなりハードでした。
私が受けたのは、演奏家Diplom試験。
二日連続で試験があります。
一日目は、大ホールでのコンサート形式。
約45分のプログラムを組んで演奏する、一般の人も聴ける公開試験です。
二日目は、学生などの関係者のみに公開する、小ホールでの試験。
時間的にはこちらの方が長く、曲の演奏のほかに、
新曲や、オーケストラ・スタディなどが加わる、能力試験のような感じです。
これだけの内容を、人様の前で演奏し、さらに評価されるとあって、
ストレスは相当なものでした。
そもそも演奏の良し悪しの前に、最後まで吹き通す体力が私にあるのか??
というような不安を感じるレベルで、準備を始めました。
準備をしているうちに、
私にはできない・・ 逃げたい・・
という気持ちになりつつ、いやダメだよね、頑張るしかないよね、と、
自分で自分を励ましながら、過ごしていました。
私は、なぜここまで来てしまったんだろう。
引き返すタイミングは何度もあったはずなのに・・
やればやるほど、引き返せなくなった、これまでを思い返したりしました。
ある日、日本の母と電話で話をしました。
私がやりたい、と言ったことを、いつも応援してくれた、母です。
励ましてもらいたかったのか、私は、
「試験受けないで、日本帰りたいなー」と、甘えたことを言いました。
そしたら、
励ましも慰めも一切なく、「馬鹿なこと言わないの!」と、一蹴されました。笑
喝を入れられた私は、
はい、もう引き返せないよ、諦めて頑張れ!と、
Diplom試験へ向けて、覚悟を決めたのです。
今思い返しても、あの時期は、本当に頑張って準備したと思います。
でも、試験が近くなってくると、緊張とストレスのあまり、
毎朝、吐き気に見舞われました。
肌が荒れました。
試験直前の時期は、しっかりご飯を食べる気もなくなりました。
そんな私の様子を見かねて、オーボエの教授は、
「あやこは、ほっといたら、ご飯食べないから、頼むよ。」
と、私の友人らに声をかけました。
友人が、持って来てくれた、手作りのかぼちゃのスープや
お魚料理・・忘れません。。
しかし、私は、なんて世話の焼ける人間なのでしょう。
そして、なんて幸せな人間なんでしょうね。
書いていて、恥ずかしくなって来ました・・
さて、前置きはこのくらいにして、
今日は、その試験の本番一日目を終えて、
二日目の時のお話です。
二日目、Rigorosumと呼ばれる試験の内容は、以下でした。
G .P.テレマン
『フルート、オーボエ、通奏低音のためのトリオソナタ c-moll』
第一楽章 Largo
第二楽章 Vivace
第三楽章 Andante
第四楽章 Allrgro
W.A.モーツァルト
『オーボエ協奏曲 C-dur KV314』より
第一楽章 Allegro aperto
第二楽章 Adagio non troppo
B.マルティヌー
『オーボエ協奏曲』
第一楽章 Moderato
第二楽章 Poco andante
第三楽章 Poco allegro
W.ルトスワフスキ
『オーボエとピアノの為のEPITAPH』
PFLICHTSTUCK
(試験の二週間前、だったっけ、に楽譜を渡され、レッスンを受けないで、
自分で曲を仕上げ演奏する、という課題)
G.F.マリピエロ
『オーボエとピアノの為のImpromptu Pastoral』
初見演奏
(その場で楽譜を渡され、数分眺め、演奏する課題)
オーケストラ・スタディ
(オーケストラ曲の、オーボエのソロや、難しいフレーズなどを準備しておき、
当日、その中から指定されたフレーズを、演奏する課題)
前日の夜に、コンサート形式の試験をやって、
次の日これですから、
なかなか、鬼ですよね。。
今やれと言われても、絶対できません。笑
この、二日目の試験は、長いので、途中に休憩が入ります。
その休憩の時です。
一旦舞台から降りた後、手元からガシャンと何かを落としました。
見ると、リードケースです。
普段愛用している10本入りのケースです。
あらら、とそれを拾い上げると、ケースはちゃんと閉まっていなかったのか、
それとも落ちた衝撃で開いてしまったのか、
中のリードたちが無惨な状態になっていました。
「・・・」
それを見た私の表情は、多分一ミリも動かなかったと思います。
なぜかというと、そのことに対して、私は何も感じなかったからです。
その日吹いていた、そして、そのまま残りの試験を吹く予定のリードは、
楽器につけたままだったか、口にくわえていたか、、とにかく無事でした。
だから問題ないと思ったのでしょう。
とにかく、後は残りの試験を吹き切るだけ・・
他になにも考えられないくらい、その時の私は舞い上がっていたのでしょうね。
その日の試験は、一日目よりは緊張も溶け、
アクシデントというほどのものもなく、
リードケース落としてるよ!!
オーケストラ・スタディの最後のひとフレーズを吹いた後、
クラリネットの教授が言います。
「これをもって、Ayako Kanayamaさんの、Diplom試験を終わります。」
そして、客席のクラスメートからの拍手です。
これまで何度も、客席から、この光景を感慨深く見ながら、拍手を送って来ました。
その日は、自分が舞台に立って、拍手を送られた。
安堵の瞬間でした。
さて、試験から解放された後の、ある日。
さて、ちょっと練習でもしてみるか、と、リードケースを開け、
その時はちゃんと、愕然としました。
「リード、ぐちゃぐちゃになってるじゃん!!」
・・はい。
終わり?
終わりです。
今日の本題は、
試験でリードケース、落としちゃった!
てこと?
・・・
そう、かも。
ちなみに、一日目のコンサート形式の試験の開始前、
舞台袖で、
その日吹く予定だったリードを壊したファゴット吹きがいます。
これは流石に、語り草になっています。
リードがないと、オーボエ吹きは何も出来ませんからね。
気をつけましょう!!
それでは・・