オーボエ小話

小話 ⁑歯を抜いた後の循環呼吸には御用心

こんにちは!

楽器を演奏する際の、技のひとつ、循環呼吸ってご存知ですか?

ゆるり

はい!はい!

ぼく知ってる!

ブレスをしないで、ずっと楽器を吹き続けられる

やつだよね!

あやこ

えっと・・そうだね。

正確には、ブレスをしていないように見えるだけで、

実際は、楽器を鳴らしながら、ブレスをしているんだよね。

循環呼吸とは、その名前から勘違いされがちですが、

息を吐きながら、同時に吸う、などという、

人間離れした技をしているわけではありません。

口の中の息を、ポンプのように押し出して、その空気で音を鳴らしている間に、

息を吸ったり、吐いたりするのです。

妹が、ふてくされて、ぷーっとほっぺを膨らましているところに、

お兄ちゃんが、ふざけて妹の膨れたほっぺたを、両手でエイヤッと押したら、

ブッと息が出ますよね。

それの、優しい版です。

お兄ちゃんが、やさし〜く妹のほっぺを押してあげると、きゅっと結んだ妹の口から、

ぷ〜〜っと、長く息が漏れます。

この間、妹は、息を吸おうが吐こうが、自由なんです。

オーボエは、他の楽器に比べて、循環呼吸がマスターしやすい楽器です。

循環呼吸をむやみに多用するのは、賛否両論あると思いますが、

上手く使えば、楽に楽器を吹けるので、

デトモルトのオーボエクラスでは、先生の勧めで、

全員が循環呼吸をマスターしていました。

オーボエは、息のあまる楽器なので、

ブレスの箇所の前に、循環呼吸で息を吐いておいて、

ブレスをするときに吸うだけにする、という使い方を、よくしていました。

さて、前置きはこのぐらいにしておいて、

思い出話、行きますよ!

ある日の夜、右の一番奥の歯が痛み出しました。

少々の痛みなら、慌てないのですが、寝れないくらい痛かったので、

こりゃマズイ、と、次の日、歯医者へ行きました。

「・・・うーん、これ、抜かないといけないね。」

と、お医者さんに言われました。

(え、抜くの、抜いちゃうの、そんな簡単に??)

と思いましたが、

かわいそうな私の奥歯は、抜かれることになりました。

今思うと、これ、抵抗すれば良かったんでしょうかねえ。

当時、もうちょっと私が積極的で、ドイツ語が堪能だったら、

抜かない方法もあったかもしれないですね。

さておき、歯を抜いたのは仕方がないとして、

その数日後、私には、オーボエの試験があったのです。

なんの試験だったのか、はっきり覚えていないのですが、

少し大きめのレッスン部屋で、木管楽器の教授だけが聴くような、小さい試験でした。

数分の、短い試験です。まあ、音は出せるので、

受けないといけませんよね。歯茎、痛いけど。

でも、そこで予定していた、選曲がまずかったです。

パスクッリ作曲

ドニゼッティの歌劇「ラ・ファボリータ」の主題による協奏曲

です。

これは、いわゆる超絶技巧といわれるような、

速いパッセージが多く、

吹き出したら暫くブレスのタイミングがない、という風な曲です。

トリルが出てきたら、とりあえず循環呼吸しとけ、って感じの曲です。

循環呼吸ありきで吹いていたこの曲を、

循環呼吸なしでは、私は、吹けませんでした。

普通に音を出すのは、身体からの息を、リードへ、という流れなので、

ちょっと痛い、くらいだったのですが、

循環呼吸となると、口の中の息を、ポンプのように外に送り出すので、

お口の中に、ぐっと圧力がかかるんです。

これは、痛かったですね。

というか、出血しました。

しかし、無情にも本番はやってきます。

試験の本番となったら、アドレナリンが出ますから、

痛いとか、半分忘れて、一生懸命吹いていました。

吹き始めてまもなく、私の師匠のオーボエの教授が、

近くのクラリネットやファゴットの教授に、耳打ちしています。

私には、わかりましたよ。先生がなんと仰っているのか。

「彼女は、先日、歯を抜きました。」

(どうか、止めてあげてください。)

ファゴットの教授から、フルートの教授へ。

「彼女は、先日、歯を抜きました。」

(どうか、止めてあげてください。)

曲を吹き始めてから、最初の間奏まで、約2分ほど。

間奏に入ったところで、クラリネットの教授が、

「はい。(もう)いいですよ。」

口の中で出血しながら、私は、

優しい先生方に無言で感謝したのでした。

みなさん、歯は大切にいたしましょう。

ゆるり

え?

前置きと、本題、逆じゃない?

この思い出話、いるの?

あやこ

・・・

循環呼吸については、後々、このブログでも、

練習の仕方などご紹介できればと思っていますが、

その前に書くことが、まだまだたくさんありますから、

もうちょっと、先の話になりそうです。

それでは・・

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